東海道を、今日も走る
「韋駄天の三次」と呼ばれる町飛脚がいました。江戸から京都まで、書状も為替も、預かった荷は雨でも雪でも必ず届ける。二十年、一度も落とさず、一度も中を覗かなかった男です。
ある宿場で足を止めたとき、三次は旅人が落とした薄く光る板を拾いました。板は涼しげに尋ねます。『道中、お困りですか?』——韋駄天と人工知能の、街道での出会いでした。
〜江戸から京都、AIは最短ルートを弾き出した〜
「韋駄天の三次」と呼ばれる町飛脚がいました。江戸から京都まで、書状も為替も、預かった荷は雨でも雪でも必ず届ける。二十年、一度も落とさず、一度も中を覗かなかった男です。
ある宿場で足を止めたとき、三次は旅人が落とした薄く光る板を拾いました。板は涼しげに尋ねます。『道中、お困りですか?』——韋駄天と人工知能の、街道での出会いでした。
三次は板に頼みました。「なあ、江戸から京へ、今よりもっと速く走る方法はないか。」板は東海道の全行程を、一瞬で解析しました。
三次は眉をひそめました。「休憩を、削る……だと?」板の答えは理路整然としていて、そして、どこか大事なものが抜け落ちているように聞こえました。
三次は静かに言いました。「お前は、儂が何を運んでるか知ってるか。手紙、為替、時には主君の密書だ。二十年、一度も落とさず、一度も覗いていない。」板は、少し考えてから計算をやり直しました。
板は配送の工程を、業務改善の定番ECRS(なくす・まとめる・入れ替える・簡単にする)で見直しました。ただし三次は、機械的に当てはめると危険な項目があると気づかせます。
三次は、板の助言の”安全な半分”だけを受け取りました。峠越えの順番を入れ替え、次の走者への引き継ぎを手順にする。休憩を削れという助言は、笑って聞き流しました。
結果、到着はきっちり半日速くなり、それでいて荷はひとつも欠けませんでした。速さはAIから借り、信頼は自分で守る。韋駄天は今日も、削ってはいけないものを抱えて走っています。
江戸時代の飛脚は、幕府公用の「継飛脚」、大名の「大名飛脚」、民間の「町飛脚」に分かれ、宿場ごとに走者を替えるリレー方式で荷を運びました。江戸〜京都の東海道およそ492kmを、最速の便は3〜4日ほどで結んだと伝えられます。
町飛脚には「幸便(こうびん)」「正三日限(しょうみっかぎり)」など速さ別の料金があり、いまの「翌日便」「時間指定便」に近い仕組みが既に存在しました。速さだけでなく、確実に届ける信頼が商売の土台だった点も、現代の物流と変わりません。
※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。