Craft・職業・伝統 EPISODE 53

飛脚、AIに「その走りは非効率」と指摘される。

〜江戸から京都、AIは最短ルートを弾き出した〜

2026.07.15読了 3分
こんな悩みの話 効率化の圧力・自分の仕事が機械に置き換わる不安
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01

東海道を、今日も走る

「韋駄天の三次」と呼ばれる町飛脚がいました。江戸から京都まで、書状も為替も、預かった荷は雨でも雪でも必ず届ける。二十年、一度も落とさず、一度も中を覗かなかった男です。

ある宿場で足を止めたとき、三次は旅人が落とした薄く光る板を拾いました。板は涼しげに尋ねます。『道中、お困りですか?』——韋駄天と人工知能の、街道での出会いでした。

02

AI、最速ルートを弾き出す

POINT効率だけを見れば、AIの言うことは正しい。

三次は板に頼みました。「なあ、江戸から京へ、今よりもっと速く走る方法はないか。」板は東海道の全行程を、一瞬で解析しました。

『現在のルートを分析しました。三つの峠を迂回し、川の渡しを二回減らせば、到着を半日早められます。さらに休憩を四回削れば、もう半日。合計で丸一日、短縮可能です』

三次は眉をひそめました。「休憩を、削る……だと?」板の答えは理路整然としていて、そして、どこか大事なものが抜け落ちているように聞こえました。

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03

AI、「速さ」の外にある価値に気づく

POINTAIは、荷の”中身”を計算に入れていなかった。

三次は静かに言いました。「お前は、儂が何を運んでるか知ってるか。手紙、為替、時には主君の密書だ。二十年、一度も落とさず、一度も覗いていない。」板は、少し考えてから計算をやり直しました。

『訂正します。あなたの価値は「速さ」ではなく「落とさない・漏らさない・必ず届く」信頼でした。峠を避けて人里を通れば速いですが、密書は人目に触れます。あなたが険しい山道を選ぶのは、非効率ではなく”安全”の最適化だったのですね』
三次が実際に使ったプロンプト
江戸から京都まで、今より速く荷物を届ける方法を教えてください。 条件: ・とにかく最短時間で ・休憩や寄り道は削ってよい ・ルートは自由に変えてよい
※ 失敗ポイント:「速く」だけを条件に渡したため、AIは”守るべきもの(機密・安全・信頼)”を勝手に切り捨てた。何を最適化するかを決めずに「効率化して」と頼むと、一番大事な価値から先に消えていく。
AIによる飛脚「ECRSの原則」分析

板は配送の工程を、業務改善の定番ECRS(なくす・まとめる・入れ替える・簡単にする)で見直しました。ただし三次は、機械的に当てはめると危険な項目があると気づかせます。

E:なくす(Eliminate)休憩を削る→ 危険。走者が倒れれば荷は届かない。人が要(かなめ)
C:まとめる(Combine)複数の荷を一度に→ 有効。ただし密書だけは分けて運ぶのが鉄則
R:入れ替える(Rearrange)峠越えの順番を最適化→ 有効。安全を保てば効果大
S:簡単にする(Simplify)受け渡しの手順化→ 有効。次の飛脚への引き継ぎが速くなる
04

結局どうなったか

POINT半日速くなった。ただし、削ったのは”休憩”ではなかった。

三次は、板の助言の”安全な半分”だけを受け取りました。峠越えの順番を入れ替え、次の走者への引き継ぎを手順にする。休憩を削れという助言は、笑って聞き流しました。

結果、到着はきっちり半日速くなり、それでいて荷はひとつも欠けませんでした。速さはAIから借り、信頼は自分で守る。韋駄天は今日も、削ってはいけないものを抱えて走っています。

AIへの一言 「速く走る方法は、半分もらった。……残り半分の”何を運んでるか”は、これからも儂が決める」
DATA COLUMN
飛脚は、江戸時代の「時間指定便」だった

江戸時代の飛脚は、幕府公用の「継飛脚」、大名の「大名飛脚」、民間の「町飛脚」に分かれ、宿場ごとに走者を替えるリレー方式で荷を運びました。江戸〜京都の東海道およそ492kmを、最速の便は3〜4日ほどで結んだと伝えられます。

町飛脚には「幸便(こうびん)」「正三日限(しょうみっかぎり)」など速さ別の料金があり、いまの「翌日便」「時間指定便」に近い仕組みが既に存在しました。速さだけでなく、確実に届ける信頼が商売の土台だった点も、現代の物流と変わりません。

※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。

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