嫌われ者のキノコ、自分の評判を知る
食卓の名脇役、椎茸のシイ夫。鍋に、煮物に、炒め物に。その豊かな香りとうまみで、料理を支えてきました。……が、実は「嫌いな食べ物」の常連でもあります。
ある日、スーパーの棚に設置された食品分析AIが話しかけてきました。『こんにちは。あなたの評価データを分析しますか?』好き嫌いの分かれるキノコと、正直すぎる人工知能の、微妙な出会いでした。
〜好き嫌いの激しいキノコに、AIは意外な存在意義を示した〜
食卓の名脇役、椎茸のシイ夫。鍋に、煮物に、炒め物に。その豊かな香りとうまみで、料理を支えてきました。……が、実は「嫌いな食べ物」の常連でもあります。
ある日、スーパーの棚に設置された食品分析AIが話しかけてきました。『こんにちは。あなたの評価データを分析しますか?』好き嫌いの分かれるキノコと、正直すぎる人工知能の、微妙な出会いでした。
シイ夫の悩みは、その嫌われっぷりでした。「僕は、子どもの嫌いな食べ物ランキングの常連なんだ。あの香り、あのぬめり、あの食感……ダメな人は、本当にダメらしい。」
給食で残され、鍋の中で避けられ、「これ椎茸?」と嫌な顔をされる。「他のキノコは、そんなに嫌われてないのに。なんで僕だけ、こんなにクセが強いんだろう。もっと万人に好かれる、食べやすいキノコだったらよかったのに。」
そこでシイ夫は、AIに「どのくらい嫌われているのか」を尋ねました。
シイ夫が「僕はどのくらい嫌われている?」と尋ねると、AIはデータを返しました。
「やっぱり……僕、嫌われ度No.1級なんだ。」シイ夫が落ち込むと、AIは分析を続けました。
「僕なしでは、成立しない味……。」シイ夫は、はっとしました。単体では好き嫌いが分かれる。でも、だしとして、料理の土台として、他の食材を引き立てる役割は、他の誰にも代われない。万人に好かれなくても、いなくては困る存在だったのです。
AIは椎茸を「そのままの好かれやすさ(単体価値)」と「他の食材を引き立てる力(相乗価値)」で切り分けます。単体では好き嫌いが割れても、うまみの相乗効果という文脈では唯一無二——評価する文脈を変えると価値が反転する回です。
AIに「料理を格上げする存在」と評価されたシイ夫は、嫌われることを気にしなくなりました。「僕は、そのまま好かれるタイプじゃない。でも、僕がいるから、料理全体がおいしくなる。それが僕の役割なんだ。」
それからのシイ夫は、無理に万人受けを狙うのをやめました。だしとして鍋を支え、煮物にうまみを染み込ませ、料理の土台を陰から支える。「主役じゃなくていい。僕がいないと物足りない、そんな存在でいられれば。」
苦手な人は、相変わらず苦手。でも、椎茸のだしが効いた料理を「おいしい」と食べる人は、知らないうちにシイ夫の恩恵を受けています。「全員に好かれなくていい。僕にしかできない仕事が、ちゃんとある。」シイ夫は今日も、食卓の味を、陰から支えています。
椎茸は、グアニル酸といううまみ成分を含むことで知られる食材です。うまみ成分には、昆布に含まれるグルタミン酸、鰹節に含まれるイノシン酸、椎茸に含まれるグアニル酸などがあり、これらを組み合わせると、うまみが単独のときより強く感じられる「うまみの相乗効果」が起こるとされます。
一方で、椎茸は独特の香りや食感から、好き嫌いが分かれる食材としてしばしば挙げられます。「そのまま好まれる」かどうかと、「料理全体のおいしさに貢献する」かどうかは別の評価軸である、と考えることができます。作中の「主役として愛されずとも、料理を格上げする」という描写は、こうしたうまみの相乗効果に基づいています。
※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。