デート3時間前、男はAIにすがった
タクヤ、28歳。3か月かけてやっと約束にこぎつけた、意中の相手との初デート。約束は今日の午後。準備は万端——のはずが、緊張で心臓が口から出そうです。
「どうしよう。話が続かなかったら。変なことを言ったら。沈黙になったら。」震える手でスマホを開き、タクヤはAIに助けを求めました。「頼む。失敗しない方法を教えてくれ。」人生を賭けた午後が、始まろうとしていました。
〜完璧な台本をもらった男は、完璧に失敗した〜
タクヤ、28歳。3か月かけてやっと約束にこぎつけた、意中の相手との初デート。約束は今日の午後。準備は万端——のはずが、緊張で心臓が口から出そうです。
「どうしよう。話が続かなかったら。変なことを言ったら。沈黙になったら。」震える手でスマホを開き、タクヤはAIに助けを求めました。「頼む。失敗しない方法を教えてくれ。」人生を賭けた午後が、始まろうとしていました。
タクヤは真面目な性格でした。だからこそ、大事な初デートを「絶対に成功させたい」と気負っていました。「相手は素敵な人だ。がっかりされたくない。完璧にエスコートして、いいところを見せなきゃ。」
その気持ちが、緊張を何倍にも膨らませます。「素の自分じゃ、きっと退屈だと思われる。もっと面白くて、気の利いた自分を演じなきゃ。」
こうしてタクヤは、ありのままの自分ではなく「完璧なデート」の台本を、AIに求めてしまったのです。
「会話の台本を作ってくれ」というタクヤに、AIは見事な進行表を用意しました。
「おお、完璧だ!」タクヤは台本を暗記して、デートに臨みました。ところが——現実は台本通りに進みません。相手の返事が予想と違うたびに、タクヤは頭の中の台本を必死に探します。「えーと、この返事のときは……話題C……いや、D……。」
会話に集中できず、上の空。褒めるタイミングは不自然、質問は尋問みたい。相手が「大丈夫?」と心配するほど、タクヤはガチガチになっていきました。完璧な台本が、完璧に彼を追い詰めたのです。
後で判明したことですが、AIはデートを「商談」と解釈し、営業の質問フレームSPINで台本を組んでいました。相手は顧客ではないのに。
沈黙に耐えかねたタクヤは、ついに白状しました。「ごめん。実は緊張しすぎて、AIに会話の台本を作ってもらって、それを必死に思い出してた……全然、集中できてなくて。」
すると相手は、ふきだして笑いました。「なにそれ!わたしも緊張して、ネットで”初デート 会話”って検索してきたよ。」二人は顔を見合わせて笑いました。その瞬間、台本は消え、初めて自然な会話が始まったのです。
ぎこちなくても、素のままの言葉。それが一番、相手に届きました。帰り道、タクヤは夜のAIにこう報告しました。「台本は1ミリも使えなかった。でも、”台本に頼るくらい緊張してた”って正直に言ったら、うまくいったよ。」
好かれたいという気持ちが強い場面では、緊張や不安が高まり、かえって本来の自分を出しにくくなることが知られています。心理学では、他者からの評価を強く意識する状態が、自然な振る舞いを妨げる要因になると説明されます。
また、自分の弱さや失敗を正直に開示すること(自己開示)が、相手との親密さや信頼を高める場合があることも、対人心理の研究でしばしば指摘されます。作中でタクヤが「緊張していた」と正直に打ち明けて距離が縮まったのは、この自己開示の効果と重なります。
※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。