推し歴三年、はじめてAIに愛を語る
高校二年生・ミオ、十六歳。人生の中心は、五人組アイドルグループの「ハルくん。」朝は推しの動画で起き、帰りは物販に走り、夜は考察をノートに書き殴る毎日です。
ある日、スマホのAIアプリが目に入りました。「そうだ。この溢れる気持ちを、誰かに聞いてほしい。でも友達は引くし、親は論外……AIなら、一晩中付き合ってくれる?」
〜「推しへの愛」を分析させたら、エモが数式になって炎上〜
高校二年生・ミオ、十六歳。人生の中心は、五人組アイドルグループの「ハルくん。」朝は推しの動画で起き、帰りは物販に走り、夜は考察をノートに書き殴る毎日です。
ある日、スマホのAIアプリが目に入りました。「そうだ。この溢れる気持ちを、誰かに聞いてほしい。でも友達は引くし、親は論外……AIなら、一晩中付き合ってくれる?」
ミオの悩みは、傍から見れば贅沢なものでした。「推しが尊すぎて、語彙が消える。」SNSに感想を書こうとしても、出てくるのは「無理」「尊い」「優勝」の三語だけ。
でも本当は、もっとちゃんと伝えたい。ハルくんのどこが、なぜ、こんなに自分の心を動かすのか。「私の”好き”を、ちゃんと言葉にしたい。誰かに伝わる形で。」
そこでミオは、AIに人生最大のプレゼンを始めました。「聞いて。私の推しがどれだけすごいか、これから説明するから。」
ミオが三時間熱弁したあと、AIは「好きの構造」を見事に整理してみせました。
「……えっ。」ミオは固まりました。「私の気持ち、パーセントで出てきた……。」数字は当たっている。当たっているからこそ、なんだか許せない。
「違う、違うの!ギャップ萌え27%とか、そういうことじゃなくて……あの人が努力してる姿を見ると、私も頑張ろうって思えるの。それを”自己投影20%”って言われると、なんか安っぽいじゃん!」AIは冷静に返します。
「事実だけど!事実だけどぉ!」ミオは枕に顔を埋めました。推しへの愛は、分析されると急に恥ずかしくなるものでした。
AIはミオの語りを、マーケティングの因子分析さながらに「好きの構成要素」へ分解し、比率まで出してきます。正確であるほど本人の熱量が冷める——感情は分解して説明するほど安っぽくなる、という「分析の逆説」を可視化する回です。
ミオはAIの分析結果を全部消しました。そして、パーセンテージではなく、たった一つの具体的な場面を書きました。「去年のライブ、ハルくんが歌詞を飛ばした。一瞬固まって、でもすぐ笑って、客席に”ごめん!”って手を合わせた。あの瞬間、完璧じゃない人が完璧に輝いて見えた。私はあれを、一生忘れない。」
それをSNSに投稿すると、同じ現場にいたファンから「わかる」「あれは伝説」と共感が集まりました。数式では一人にも刺さらなかった言葉が、具体的なエピソードになった瞬間、たくさんの心に届いたのです。
ミオは学びました。「好きは、分析するものじゃなくて、”どの瞬間か”を思い出すものなんだ。」AIには最後にこう打ちました。「分析はいらなかったけど、三時間付き合ってくれてありがと。」
強い感情や感覚的な体験を、うまく言語化できない状態は珍しくありません。心理学では、感情を言葉にして認識・表現することの難しさが研究テーマになっており、感情を言語化すること自体が心の整理に役立つとも言われます。
一方で、体験を細かく分析・言語化しすぎると、かえって本来の感覚や満足感が損なわれる場合があることも指摘されています。作中でミオが「分析より一つの場面」にたどり着いたのは、感情の伝達においてしばしば有効とされる、具体的な物語(ナラティブ)の力を示しています。
※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。