気まぐれの達人、はじめて計画を立てる
名前はまだない。あるかもしれないが、教える気はない。裏路地を縄張りにする野良猫・クロ(推定三歳・オス)は、今日もどこかの塀の上で気ままに昼寝をしています。
ある夜、酔っ払いが落としていったスマホが、足元で光りました。『何かお探しですか?』クロは前足でちょいと画面に触れました。「……ちょうどいい。ちょっと聞きたいことがあったんだ。」
〜「自由に生きるコツ」を聞いたら、就職を勧められた〜
名前はまだない。あるかもしれないが、教える気はない。裏路地を縄張りにする野良猫・クロ(推定三歳・オス)は、今日もどこかの塀の上で気ままに昼寝をしています。
ある夜、酔っ払いが落としていったスマホが、足元で光りました。『何かお探しですか?』クロは前足でちょいと画面に触れました。「……ちょうどいい。ちょっと聞きたいことがあったんだ。」
クロの生活は、気ままそのものです。誰にも媚びず、誰にも縛られず、好きな時に寝て、好きな時に狩る。「これぞ猫の中の猫よ。」
でも、夜は長くて寒い。餌は毎日保証されているわけじゃない。近所の飼い猫・タマは、暖かい部屋でカリカリを食べ、健康診断まで受けている。「あいつは自由を売って、安定を買った。俺は自由を守って……何を得てるんだ?」
強がってはいるものの、クロにも迷いがありました。「この生き方で、いいんだよな?」その答えを、クロはAIに求めました。
クロは「野良として賢く生き延びる方法」を尋ねました。AIの回答は、あまりにも現実的でした。
「就職しろってか。」クロの尻尾がぶわっと膨らみました。「俺は自由に生きてるんだ。安定と引き換えに、毎朝同じ窓辺で愛想を振りまく人生なんざ、まっぴらだね。」AIは淡々と続けます。
クロは言葉に詰まりました。「……自律性、だよ。」声が少し小さくなりました。「わかってる。長生きはできねえ。でも、飼われて安全に十年生きるより、自由に三年生きる方が、俺は猫だ。」AIは静かに記録しました。『メモ:このユーザーは、安定より自律を優先する。』
AIはクロの選択を2軸で可視化。生存率で見れば「飼い猫」が最適だが、自律性という測りにくい価値を軸に入れると答えが反転する——何を大事にするかで最適解は変わる、という価値観の回。
クロは里親募集への応募を断りました。でも、AIから一つだけ提案を受け入れました。「無理に安定を選ばなくていい。ただ、寒い夜に逃げ込める場所を三つ、把握しておくと生存率が上がる。」
クロは縄張りの中に、雨風をしのげる物置、暖かい室外機の裏、優しい人がたまに餌をくれる軒先——三つの”逃げ場”を確保しました。自由は手放さず、でも無謀ではなく。「自由に生きるってのは、無計画って意味じゃねえ。いつでも自由でいられるように、備えておくことだ。」
今日もクロは塀の上で昼寝をしています。ただ、寝る前にちょっとだけ、今夜の寝床を考えるようになりました。
一般に、飼い猫(室内飼い)の平均寿命は十数年とされる一方、外で暮らす猫は交通事故・感染症・気候などのリスクにさらされ、寿命が大幅に短くなる傾向があると言われています。作中でAIが「野良は寿命が短い」と指摘したのは、この一般的な傾向に基づいています。
また、猫は本来なわばりを持つ動物で、安全な休息場所を複数確保する習性が知られています。クロが「逃げ場を三つ持つ」という結末は、猫の生態としても理にかなっています。
※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。