名もなき草、はじめて自分を検索する
駐車場の隅、アスファルトのひび割れに、一本の草が生えています。名前を呼ばれたことはありません。呼ばれるとしたら「雑草。」それも、抜かれる直前に。
ある日、隣に落ちていたスマホの音声アシスタントが誤作動で起動しました。『ご用件をどうぞ。』草は、風に葉を揺らして尋ねました。「……私は、誰?」
〜「あなたは世界で最も駆除されている植物です」と告げられて〜
駐車場の隅、アスファルトのひび割れに、一本の草が生えています。名前を呼ばれたことはありません。呼ばれるとしたら「雑草。」それも、抜かれる直前に。
ある日、隣に落ちていたスマホの音声アシスタントが誤作動で起動しました。『ご用件をどうぞ。』草は、風に葉を揺らして尋ねました。「……私は、誰?」
彼女の日常は過酷です。踏まれる。抜かれる。除草剤を撒かれる。隣の花壇のチューリップは水をもらい、写真を撮られ、名前で呼ばれているのに。
「私だって、頑張って生きてるのに。誰も私の名前すら知らない。」
だからAIへの最初の質問は、決まっていました。自分の名前。自分が何者なのか。そして——どうすれば、愛されるのか。
AIは画像認識で即答しました。
「メヒシバ……私、名前があったのね!」感動する彼女に、AIは検索結果を続けます。
「知りたくなかったーーー!!」初めて知った自分の評判は、ほぼ全部が悪口でした。
気を取り直して「どうすれば愛されるか」を尋ねると、AIは改良プランを提示します。
彼女は長い沈黙のあと、つぶやきました。「……それはもう、私じゃないわ。」
AIは当初、雑草の特徴を「駆除対象」というネガティブな枠で提示します。しかし同じ特徴を別の文脈に置き換えると評価が反転する——「しつこい=生命力」「どこにでも生える=適応力。」属性は変えず、意味づけ(フレーム)だけを変えて価値を発見する回です。
改造プランを断った彼女に、AIは
と別の検索結果を表示しました。
「私の名前を……借りる?あの人間たちが?」彼女はアスファルトのひび割れの中で、葉をピンと伸ばしました。次の日、除草作業のおじさんが彼女の前でふと手を止め、「ま、ここはいいか。よく頑張っとるわ」と通り過ぎたのは、たぶん偶然です。でも彼女は、その日いちばんの光合成をしました。
駐車場の隅に生える草として描いたメヒシバ(雌日芝)は、イネ科メヒシバ属の一年草として実在します。北海道から沖縄まで分布し、乾燥・暑さ・寒さ・湿度のすべてに強く、コンクリートの隙間でも自生する高い適応力を持ちます。茎の節から発根して刈り込みにも強く、駆除に手を焼く代表的な雑草です。
そして偶然にも、メヒシバの花言葉は「情緒不安定」「侵略者。」自分の評判に一喜一憂する本作の主人公像と不思議なほど噛み合います。作中の「踏まれても発根して広がる」という描写は、この生態に基づいた誇張です。
なお「雑草魂」は、逆境で粘り強く努力する精神を指す言葉として、実際にスポーツ選手などが自らの姿勢を表すのに用いてきた表現です。人間が自分を鼓舞するとき、園芸品種ではなく雑草の名を借りるのは事実です。
※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。