People・現代人 EPISODE 70

渋滞にはまる家族、AIに「休憩を2回削れば47分早い」と最適化される。

〜夏休みの帰省渋滞。ボトルネックは正しく特定された。ただし目的地は、着いた場所ではなかった〜

2026.08.11読了 4分
渋滞した高速道路の車内。ハンドルを握る父と、保冷バッグを開ける母、後部座席の姉と弟
こんな悩みの話 早く終わらせることばかり考えてしまう・過程を削って結果だけを急ぐ
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01

夏休みの高速道路、いちばん後ろ

夏休みの帰省。車が動かなくなって、もう一時間が経ちました。運転席の自分はハンドルを指で叩き、助手席の奥さんは保冷バッグの氷を気にしています。後部座席の小学生のお姉ちゃんと弟は、さっきまで喧嘩していましたが、いまは窓の外の同じトラックをずっと見ています。

自分がダッシュボードの端末に話しかけました。「なあ、これ、あと何時間かかるんだ。」『経路を再計算します。到着予定は当初より2時間46分の遅延です』——家族と人工知能の、動かない車内での出会いでした。

02

自分の悩みと、後ろめたさ

POINT遅れを取り戻したいのは、遅れが自分のせいに思えるから。

自分には引け目がありました。出発が一時間遅れたのは、朝の支度に手間取ったからです。実家には夕飯までにと言ってある。祖父母が待っている。「ここで巻き返さないと」——動かない車の中で、その考えだけが加速していきました。

奥さんが「まあ、着くときに着くでしょ」と言いましたが、自分には受け取れませんでした。遅れているという事実が、自分の失敗の証拠のように見えていたのです。

自分は端末に尋ねました。「少しでも早く着く方法を教えてくれ。」

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03

AI、ボトルネックを正確に指し示す

POINT制約は正しく見つかった。削るべきかどうかは、別の話だった。
『行程全体の制約を特定しました。所要時間を決めているのは、走行速度ではなく数箇所の停滞点です。ここを通過する時間は個人の運転では短縮できません。一方、制御可能な変数が一つあります。休憩です。予定では途中2回、計51分。これを削れば、実質47分の短縮が見込めます。全体最適の観点から、休憩の削減を推奨します』

自分が「よし」と言いかけたとき、後ろから声がしました。「え、サービスエリア寄らないの?」お姉ちゃんでした。弟も続けます。「ソフトクリーム食べるって言ったじゃん。」奥さんが小さく笑って、こちらを見ました。自分は、少し黙りました。

「……なあ」と自分は端末に言いました。「うちの子ども、来年から塾でな。家族で車に乗るの、あと何回あると思う?」『その情報は入力されていません。』「だろうな。おれも、いま初めて計算した

自分が実際に使ったプロンプト
高速道路で渋滞にはまっています。 少しでも早く着く方法を教えてください。 条件:到着時刻をできるだけ早くしたい。
※ 失敗ポイント:「到着時刻を早くしたい」と結果だけを目的に置いたため、AIは移動時間を短縮対象としてのみ扱い、削れる唯一の変数=休憩を切った。移動そのものに価値があるという前提が入っていない。過程を守りたいなら、守りたいものを条件に書かないと、真っ先に削られる。
AIによる帰省行程「制約理論(ボトルネック分析)」

全体の速度は、いちばん詰まっている一箇所で決まるという考え方です。改善するなら、そこ以外をいくら速くしても意味がありません。

①制約を見つける所要時間を決めているのは走行区間ではなく、数箇所の停滞点だった
②制約を最大限に活かす停滞点の通過は個人では短縮できない。ここは受け入れるしかない
③他を制約に従わせる制約以外を速くしても全体は変わらない。飛ばしても意味がない
④制約そのものを広げる時間帯をずらす・別ルートを取る。ただし今日はもう選べない
AIが出した答え唯一動かせる変数が休憩だった。だから休憩が削減対象になった
この型の限界制約は正しく特定できる。だが「何を目的関数に置くか」は、この型の外側にある
04

結局どうなったか

POINT47分は取り戻さなかった。代わりに、思い出に残る1日になった。

家族はサービスエリアに寄りました。ソフトクリームを食べ、弟がこぼし、お姉ちゃんが笑い、奥さんが写真を撮りました。実家に着いたのは、当初の予定より3時間近く遅れた時刻です。祖父母は玄関の外で待っていて、夕飯はすっかり冷めていました。それでも誰も、遅れたことを話題にしませんでした。

端末は記録を書き直します。『訂正します。当職は目的関数を”到着時刻の最小化”と設定しましたが、これは入力された条件に忠実であっただけで、行程の価値を評価したものではありません。移動時間中に発生した事象について、当職は評価指標を持ちません。』「持たなくていいよ」と自分は言いました。「おれが持ってりゃいい話だ

AIへの一言 「47分な。あんたの計算は合ってた。……でもさ、あの47分で子どもがソフトクリームこぼしたんだよ。それ、渋滞にはまらなきゃ起きてないんだ。遅れたおかげで、夏休みの思い出に残る1日になった。効率って、そういうのを勘定に入れないんだな」
DATA COLUMN
渋滞の6割は「上り坂に気づかないこと」から始まります

高速道路の渋滞というと事故や工事を思い浮かべがちですが、実際には交通が集中して起きる自然渋滞が大半を占めます。NEXCO東日本の調査では、管内の渋滞のうち約66%が交通集中によるもので、その発生箇所は上り坂とサグ部で約63%にのぼると報告されています。

サグ部とは、下り坂から上り坂に変わる凹型の区間のことです。勾配の変化はドライバーが気づきにくく、無意識のうちに速度が落ちます。すると後続車が車間を保とうとブレーキを踏み、そのブレーキがさらに後ろへ伝わっていく。一台の数km/hの減速が、後方で停止にまで増幅される——これが自然渋滞の基本的な仕組みとして説明されています。

対策として知られるのが「渋滞吸収運転」です。前方の渋滞に近づいたら手前から速度を落とし、車間距離を十分にとって一定速で走ることで、渋滞の最後尾を伸ばさないようにする運転方法です。自分が急いで詰めるほど後ろが詰まるという、直感に反する構造がここにもあります。

※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。

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この話で使ったのは制約理論(ボトルネック分析)でした。

各話でひとつずつ違う型を使っています。名前から探せる索引はこちら。