八月の作業場、玉を巻きながら
河川敷から少し離れた作業場で、花火師は黙々と玉を巻いていました。星をひとつずつ並べ、和紙を重ね、糊を打つ。この一発が空にいるのは、二秒に満たない時間です。
作業台の隅で、事務所から持ってきた端末が光りました。今年もまた、近くの町の大会が中止になったと聞いたところです。『分析ができます。事業と、お困りごとをどうぞ』——花火師と人工知能の、火薬の匂いのする作業場での出会いでした。
〜七つの外部環境はすべて逆風だった。ただしAIは、音を数えていなかった〜
河川敷から少し離れた作業場で、花火師は黙々と玉を巻いていました。星をひとつずつ並べ、和紙を重ね、糊を打つ。この一発が空にいるのは、二秒に満たない時間です。
作業台の隅で、事務所から持ってきた端末が光りました。今年もまた、近くの町の大会が中止になったと聞いたところです。『分析ができます。事業と、お困りごとをどうぞ』——花火師と人工知能の、火薬の匂いのする作業場での出会いでした。
腕は落ちていません。むしろ良くなっている。それでも、上げる場所が毎年ひとつずつ減っていきます。警備の費用が上がり、資材も上がり、苦情が来て、協賛が集まらない。どれも花火の出来とは関係のない理由ばかりでした。
「三十年やってきて、玉のことなら何でも分かる。だが、大会がなくなる理由については、俺は何も知らないんだ。」技術で解決できない問題に、はじめて向き合っていました。
花火師は端末に尋ねました。「もっと多くの人に見てもらうには、どうしたらいい?」
花火師は手を止めませんでした。星を並べながら、静かに聞き返します。「あんた、花火を見たことがあるか。」『映像データとしては多数参照しています。』「そうか。じゃあ、まだ見たことがないんだな。」糊を打つ手が止まりました。「腹に来るんだよ。音が。空気が押してくるんだ。あれを浴びた子どもが、三十年経って俺のところに来る。画面の前じゃ、誰も俺のところには来ない」
社会・技術・経済・環境・政治・法・倫理の七方向から外部環境を読む型です。PEST分析を拡張したもので、環境や倫理まで扱えるのが特徴です。
その夏、花火師は配信を引き受けました。遠くの人が見てくれて、寄付も少し集まりました。数字の上では、AIの言うとおりでした。それでも河川敷は続けました。規模は小さくなり、上げる数も減りましたが、一発だけは、いちばん大きい玉を残しました。腹に来る音のする、あの一発です。
端末は分析を書き直します。『訂正します。当職は成果指標を”視聴者数”に置きましたが、体験の質は指標に含まれていませんでした。加えて、当職が参照できるのは映像と音声のデータであり、圧力波としての音は取得していません。花火の評価に関して、当職には観測できていない要素があります。』「そうだろうな」と花火師は笑いました。「見に来いよ。データにならんぞ」
近年、各地の花火大会が中止や規模縮小に追い込まれる事例が相次いでいます。ある調査では、全国461の花火大会のうち約24%が過去5年以内に中止または規模縮小を経験したと報告されています。理由として繰り返し挙げられるのが、警備費の高騰と警備員の確保難です。ある観光協会では警備費が前年比25%上昇し、総予算の3分の1を占めるに至ったと報じられています。
あわせて、花火玉そのものの原材料費の高騰、近隣からの苦情、運営を担う人手の不足、協賛金の減少といった要因が重なります。いずれも花火の技術や品質とは無関係の理由である点が、この問題の特徴として語られます。
日本三大花火大会として知られるのは、秋田の「大曲の花火」、新潟の「長岡まつり大花火大会」、茨城の「土浦全国花火競技大会」です。長岡は1879年(明治12年)にさかのぼるとされ、三つの中で最も長い歴史を持ちます。大曲と土浦は全国の花火師が技を競う競技大会で、職人にとっての発表の場としての性格も持っています。
※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。