Food・たべもの EPISODE 75

サンマ、AIに「ボトルネック品目です」と代替を勧められる。

〜供給は不安定、単価は上昇。それでも秋になると、みんなが探しにくる〜

2026.09.08読了 4分
商店街の魚屋の店先で、氷の上に並ぶサンマと仕入れ分析を映すタブレット
こんな悩みの話 代わりがきくと言われる・自分の値打ちを金額で説明できない
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01

九月の魚屋、氷の上で

商店街の魚屋の店先に、その日入荷したサンマが並びました。氷の上に一列、腹を上にして。値札には、去年より高い数字が書いてあります。

店主が発注に使っているタブレットが、まな板の脇で光りました。『仕入れの分析ができます。品目と、お困りごとをどうぞ』——サンマと人工知能の、氷の上での出会いでした。

02

サンマの悩みと、変わったのは自分ではない

POINT自分は変わっていないのに、扱いだけが変わることがある。

サンマには引っかかっていることがありました。昔は「大衆魚」と呼ばれていたのです。安くて、どこの家の食卓にも上がって、七輪の煙が路地に流れていた。

ところがここ数年、店先で客がこう言うのを何度も聞きました。「サンマ、高くなったねえ。」手に取って、値札を見て、戻す。自分は何も変えていないのに、居場所が変わっていました。

サンマはタブレットに尋ねました。「わたし、まだ仕入れる価値ある?」

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03

AI、調達区分を「ボトルネック品目」と判定する

POINT分類は正しかった。ただし「重要度」を金額で測っていた。
『調達の観点から分類しました。供給リスクは高、調達金額の規模は小。この組み合わせはボトルネック品目に該当します。漁獲量は不安定で価格変動も大きい一方、店全体の仕入れ額に占める割合は限定的です。栄養価・調理法の近い代替品としてイワシ、サバ、アジが利用可能です。調達の安定性を優先するなら、代替品への切り替えを推奨します

サンマは氷の上で、しばらく黙っていました。それから、こう返します。「代わりがきくんやったら、なんで秋になったら、みんなわたしを探しにくるんや。」

『……栄養成分では代替可能です。』「そやろな。ほな聞くけど、イワシ焼いて「秋が来たな」て言う人、おるか。」タブレットが黙りました。「わたしはな、安いから買われとったんやない。秋になったら食べるもんやから、買われとったんや

サンマが実際に使ったプロンプト
魚屋の仕入れです。サンマを扱い続けるべきか判断してください。 条件:仕入れの安定性とコストで評価してください。
※ 失敗ポイント:「安定性とコストで」と調達の物差しだけを指定したため、AIは供給リスクと金額規模でサンマを分類し、代替可能と結論した。だが客がサンマを買う理由は栄養でも価格でもなく、秋が来たことを確かめるためだった。売場での意味を条件に入れないと、それは評価軸に存在しない。
AIによる仕入れ「クラルジック・マトリクス」再分析

調達品を供給リスク調達金額の重要度の2軸で4つに分ける型です。どの品目にどれだけ手をかけるかを決めるために使われます。

戦略品目(リスク高×金額大)長期契約や共同開発で関係を固める対象
レバレッジ品目(リスク低×金額大)相見積もりで価格を詰める対象
ボトルネック品目(リスク高×金額小)AIはここに分類。代替品を探すのが定石とされる区分
非重要品目(リスク低×金額小)手をかけず定型処理でよい対象
判定が分かれた理由この型の「重要度」は調達金額を指す。サンマは金額では小さい
この型の限界仕入れ側の負担は測れる。だが「客がなぜそれを選ぶか」は軸に入っていない
04

結局どうなったか

POINT仕入れは減らさなかった。ただ、値札の書き方を変えた。

店主はサンマの仕入れをやめませんでした。かわりに、AIの助言のうち別の部分を受け入れます。入荷日と数量の見込みを事前に把握して、売り切れる量だけを仕入れるようにしたのです。値引きして捨てる分が減りました。

そして値札を書き替えました。金額の上に、大きくこう書いたのです。「今年のサンマ、入りました」。その日、氷の上は夕方前に空になりました。

タブレットは分析を書き直します。『訂正します。当職は重要度を調達金額で測りましたが、この品目の重要度は売場における役割にありました。なお、値札の表記変更による販売数の変化は、当職の予測に含まれていません。』「そらそうやろ」とサンマは言いました。「あれは、秋が来ましたっちゅう札やからな

AIへの一言 「ボトルネック品目な。ええ響きやないけど、当たっとる。獲れる年と獲れん年があるのは、ほんまや。……せやけどな、代わりがきくかどうかは、あんたやのうて、食べる人が決めるんや。今年もちゃんと、来てくれたやろ」
DATA COLUMN
サンマの漁獲量は、ピーク時の2割を下回っています

サンマの水揚げ量は2008年の約34万トンをピークに、大きく減少しました。2001年から2014年ごろまではおおむね20万トン前後で推移していましたが、2015年から2018年に10万トン前後へ、2019年以降は5万トンを下回る年が続いています。2025年は約6万5千トンで、ピーク時の2割弱にとどまりました。

不漁の要因として、2010年以降に進んだ分布の沖合化が挙げられます。海水温の上昇や餌環境の変化により、サンマの回遊する海域が日本の沿岸から遠ざかったという見方です。あわせて、資源量そのものの減少や、公海での外国漁船による漁獲の影響も指摘されています。

価格も大きく変わりました。1キロあたりの平均単価は2009年の約69円から、2025年には約332円へ。かつて「大衆魚」と呼ばれた魚が、いまは「高級魚」と報じられることもあります。魚そのものは変わっていませんが、獲れる量と値段が変われば、食卓での位置づけも変わっていきます。

※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。

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ほかの話では、別の分析のしかたを使っています。

各話でひとつずつ違う型を使っています。名前から探せる索引はこちら。