History・歴史人物 EPISODE 58

スティーブ・ジョブズ、AIに「その市場は存在しない」と却下される。

〜市場規模の試算はゼロ。調査AIは開発中止を勧めた〜

2026.07.19読了 3分
こんな悩みの話 データがないと動けない組織・直感を信じる怖さ
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01

会議室に、市場調査AIがやってきた

カリフォルニア、クパチーノ。とある会議室に、役員会の肝いりで「市場調査AI」が導入されました。『あらゆる新製品の市場規模を試算し、投資判断を支援します。』

黒いタートルネックの男は、その画面を面白くもなさそうに眺めていました。「ふうん。じゃあ聞くけど」——直感で市場を作る男と、データで市場を測る人工知能の出会いでした。

02

ジョブズの構想と悩み

POINT誰も見たことがない物は、調査に出てこない。

男の構想はシンプルでした。「ボタンを全部なくした電話を作る。画面だけだ。電話で、音楽が聴けて、ポケットのネット端末になる。」

役員たちの反応は、いつも同じです。「素晴らしい。で、市場調査の結果は?」数字がないと誰も動けない。だが、まだ存在しないものの数字は、どこにも存在しない。「調査を待っていたら、未来のほうが先に来ちまう。」

男は仕方なく、導入されたばかりのAIに構想を入力しました。「この製品の市場規模を出してくれ。役員会がうるさいんでね。」

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03

AI、市場ゼロと試算する

POINT調査は過去の写像。新市場は、そこに写らない。
『消費者調査の結果をご報告します。「ボタンのない電話が欲しい」という回答は0.4%。既存の携帯電話市場において、物理キーボードは購入決定要因の上位です。結論:この市場は存在しません。開発中止を推奨します』

男は肩をすくめました。「そうだろうね。人は、形にして見せられるまで、自分が何を欲しいか分からないんだ。電話とウォークマンとパソコンを一台にしたいかなんて、聞かれたこともないんだから。」

ジョブズ(の部下)が実際に使ったプロンプト
ボタンのない、画面だけの電話を開発すべきか判断してください。 消費者調査のデータから、市場規模を算出してください。
※ 失敗ポイント:存在しない製品の需要を「現在の消費者の回答」で測らせた。人は見たことのないものを「欲しい」と答えられない。調査データは常に過去の写像であり、市場を新しく作る製品の判断を調査だけに委ねると、答えは必ず「やめておけ」になる。
AIによる「TAM・SAM・SOM」の測り直し

AIは市場規模の物差しそのものを疑い、TAM(獲得可能な最大市場)・SAM(狙える市場)・SOM(実際に取れる市場)を「市場の定義」ごと引き直しました。

誤ったTAM「ボタンのない電話市場」=ほぼゼロ。存在しない棚を測っていた
正しいTAM電話+音楽プレーヤー+カメラ+携帯ネット端末の合算市場。桁が変わる
SAMまず高価格帯を受け入れる先進国のアーリーアダプター層
SOM発売初年に取れる現実的シェア。ここだけは謙虚に小さく見積もる
04

結局どうなったか

POINT需要は「ある」ものではなく、「生まれる」ものだった。

男は調査の代わりに、試作機を一台、役員会のテーブルの真ん中に置きました。指でなぞると、画面の中の写真がすっと滑る。会議室が、静かになりました。さっきまで数字を求めていた役員が、順番待ちで試作機を触っています。

AIは、その光景を記録して言いました。『訂正します。需要は、いま発生しました。』男は頷きました。「そういうことだ。市場ってのは、測るものじゃない。作るものなんだ。」

AIへの一言 「君の計算は間違っちゃいない。ただ、発売日の翌日から当たり始めるってだけさ。次からは”まだ無い市場”の欄も作っておけよ」
DATA COLUMN
iPhoneは「電話市場の調査」からは生まれなかったとされます

初代iPhoneの発表は2007年。発表の場でスティーブ・ジョブズは「ワイド画面のiPod・革新的な携帯電話・画期的なネット通信機器」の3つを一台にした製品として紹介しました。物理キーボードが主流だった当時の携帯電話市場の常識に対し、タッチパネルのみという構成は大きな賭けと受け止められました。

ジョブズは市場調査に頼らない製品開発の姿勢で知られ、「人は形にして見せるまで、何が欲しいか分からない」という趣旨の発言が広く伝えられています。スマートフォンはその後、携帯電話市場そのものを再定義し、当初の「電話市場」の物差しでは測れない規模の産業となりました。

※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。

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