街道の茶屋に、南蛮渡来の旅道具
とある宿場町の茶屋。団子を頬張る一行の真ん中に、白いひげの隠居がいました。越後のちりめん問屋の隠居——ということになっている、あのご老公です。
道具屋を冷やかした格さんが、南蛮渡来だという薄い板を買ってきました。『旅程を最適化します。目的地をどうぞ。』うっかり八兵衛が身を乗り出します。「ご隠居、こいつは便利ですぜ」——世直しの旅と人工知能の、街道での出会いでした。
〜世直しの旅を、AIは90%短縮できると言った〜
とある宿場町の茶屋。団子を頬張る一行の真ん中に、白いひげの隠居がいました。越後のちりめん問屋の隠居——ということになっている、あのご老公です。
道具屋を冷やかした格さんが、南蛮渡来だという薄い板を買ってきました。『旅程を最適化します。目的地をどうぞ。』うっかり八兵衛が身を乗り出します。「ご隠居、こいつは便利ですぜ」——世直しの旅と人工知能の、街道での出会いでした。
ご老公の旅は、いつも同じ流れです。町に着き、聞き込みをし、悪代官と悪徳商人の企みを掴み、時に潜入し、立ち回りがあって、最後にあの印籠。「この紋所が目に入らぬか」で、皆がははーっとひれ伏して、一件落着。
ただ、ご老公にも悩みはありました。「世直しは急務じゃが、一件に八日はかかる。わしも歳での、正直、膝にくる。」八兵衛は言います。「ご隠居、この板に聞いてみましょうよ。旅がもそっと楽になるかもしれませんぜ。」
ご老公は板に尋ねました。「世直しの旅を、もそっと楽にできんかのう。」
八兵衛は手を打ちました。「そいつは楽だ!」しかしご老公は、静かに首を振ります。「それでは駄目なのじゃ。先に印籠を出せば、皆は頭を下げる。だが悪党は尻尾を隠し、庶民は本当の声を飲み込む。権威を先に出すとな、真実のほうが隠れてしまうのじゃよ。」
AIは世直しの一部始終を、価値がどの工程で生まれるかを見るバリューチェーンで再分析しました。すると「無駄」と見えた工程こそが、最後の印籠に効力を与えていました。
ご老公は、AIの提案の「安全な部分」だけを受け取りました。宿場間の移動ルートと宿の手配、渡し舟の時刻。旅程の段取りだけを板に任せたところ、移動は二日縮まり、膝への負担はだいぶ軽くなりました。
世直しの工程は、ひとつも削りませんでした。聞き込みも、潜入も、立ち回りも、そして最後の印籠も、いつも通り。板は静かに記録しました。『旅程の無駄は削減しました。物語の無駄は、無駄ではないと学習しました。』
水戸黄門のモデルは水戸藩二代藩主・徳川光圀(1628-1701)ですが、史実の光圀が諸国を漫遊した記録はなく、隠居後は水戸近郊の西山荘で『大日本史』の編纂に力を注いだとされます。漫遊記は講談や歌舞伎で広まった創作で、家臣の佐々木助三郎・渥美格之進のモデルとされる学者(佐々宗淳・安積澹泊)は史料収集の旅をしていました。
テレビ時代劇『水戸黄門』は1969年に放送が始まり、40年以上続く長寿シリーズとなりました。クライマックスで印籠を掲げる「型」は視聴者との約束事として愛され、「同じ流れなのに面白い」——定型の反復が価値になる物語構造の代表例と語られます。
※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。