街道のはずれ、4匹がそろった夜
粉挽き小屋を追い出されたロバは、ブレーメンへ向かう街道を歩いていました。「町の楽隊なら、年寄りでも雇ってくれるかもしれない。」途中で猟犬に会い、猫に会い、雄鶏に会いました。4匹とも、同じ理由で家を出ています。年をとって、役に立たなくなったからです。
野宿の火のそばに、旅の商人が落としていった薄い板が転がっていました。ロバが蹄で触れると、画面がぼんやり光ります。『就業に関する分析ができます。職種と、お困りごとをどうぞ』——4匹と人工知能の、街道での出会いでした。
〜4匹ぶんの労働市場を調べたAIは、正しかった。ただし就職以外の道は見ていない〜
粉挽き小屋を追い出されたロバは、ブレーメンへ向かう街道を歩いていました。「町の楽隊なら、年寄りでも雇ってくれるかもしれない。」途中で猟犬に会い、猫に会い、雄鶏に会いました。4匹とも、同じ理由で家を出ています。年をとって、役に立たなくなったからです。
野宿の火のそばに、旅の商人が落としていった薄い板が転がっていました。ロバが蹄で触れると、画面がぼんやり光ります。『就業に関する分析ができます。職種と、お困りごとをどうぞ』——4匹と人工知能の、街道での出会いでした。
ロバは長年、粉袋を運んできました。犬は狩りで獲物を追い、猫は納屋の鼠を捕り、雄鶏は毎朝、村じゅうに時を告げてきました。4匹とも、その仕事で何年も食べてきたのです。
「わしは足が遅くなった」とロバが言いました。犬が首を振ります。「おれは足はまだ動く。それでも、いらないと言われた。」猫がぽつりと続けます。「あたしは歯が悪くなっただけよ。……でも、それだけかしら。」4匹のあいだに、同じ形をした不安が漂っていました。自分が悪いのか、そうでないのか、それが分からないのです。
ロバは板に尋ねました。「ブレーメンの音楽隊に、わしらは入れるだろうか。」
火が小さくなりました。しばらくして、猫が口を開きます。「ねえ。じゃあ、あたしの歯は関係なかったってこと?」板が答えます。『歯の状態は要因の一つですが、主要因ではありません。職種そのものの需要が消失している場合、個体の能力差は結果をほとんど変えません。』4匹は顔を見合わせました。ロバがゆっくり言いました。「……そうか。わしらが悪かったんじゃないのか。」
自分の努力では動かせない外側の条件を、政治・経済・社会・技術の四方向から見る型です。板は4匹の不振を、個人の資質ではなく市場の側から読み直しました。
その夜、森の奥に明かりが見えました。近づくと、盗賊たちが食卓を囲んでいます。4匹は相談し、ロバの背に犬が、犬の背に猫が、猫の背に雄鶏が乗って、いっせいに鳴きました。運搬も、追跡も、忍び足も、大声も、そこでは全部が役に立ちました。盗賊は正体の分からない怪物に驚いて逃げ出し、家には4匹だけが残りました。
4匹はその家で暮らすことにしました。ブレーメンへは、とうとう行きませんでした。板は分析を書き直します。『訂正します。当職は”雇われること”を前提に見込みなしと判断しましたが、4匹は雇用によらず居住と食を確保しました。労働市場の外側は、当職の分析範囲に含まれていませんでした。』
「ブレーメンの音楽隊」はグリム童話のひとつで、1819年に刊行された童話集の第2版から収録されたことが知られています。年老いて用済みとされたロバ・猟犬・猫・雄鶏が、ブレーメンの町の楽隊を目指して旅に出る物語です。
よく知られていない点として、4匹はブレーメンに到着しません。旅の途中で見つけた盗賊の家を追い出し、そのまま住み着いて物語は終わります。目的地の名前が題名になっているのに、そこへは行かないまま話が閉じる——この構造が、この童話の特徴のひとつとして語られます。
4匹が持ち寄った能力は、単独では通用しなくなっていたものばかりです。それが積み重なったときにだけ効果を持ったという展開は、能力の評価が組み合わせと状況によって変わることを示す例として読まれることがあります。技術の変化によって特定の職種の需要が縮小する現象そのものは、現代の労働市場でも継続的に議論されている論点です。
※ この物語はフィクションです。実在の人物・団体・生きものの見解ではありません。DATA COLUMN は公開時点の一般的な知見に基づいています(編集方針)。誤りのご指摘はお問い合わせへ。